2008年06月22日

ふたりジャネット  テリー・ビッスン

みなさんこんばんは。背中から忍び寄る(もしくは足の裏へと張り付く)じめじめに戦々恐々のたまねぎです。本が湿気を吸わないように小まめに換気しなくては。
さて今月の奇想コレクションはオレンジ色の表紙も鮮やかなテリー・ビッスン著『ふたりジャネット』になります。いいですねえ、オレンジ。オレンジは今来てるんですよ。オランイェ!

しかし、奇想コレクションもこれで5冊目となるのですが、この作品はなんかこれまでとは違うなあと感じながら最初は読んでいました。変わってると言えば変わってるし、不思議と言えば不思議な話ばかりなんだけど、今までみたいなワクワクドキドキとか何が起こってるんだろうって戸惑いはあまりなくて、SFやファンタジーを読んでるってよりも純文学を読んでいるような気分に近かったです。
ただこの本は前半に30頁前後の短い話がいくつか収められていて、後に行くと50頁を越える中編が並ぶようになるんだけど、前半と後半で感じがガラッと変わります。それもそのはずで、最後の3つは《万能中国人ウィルスン・ウー》っていうシリーズものになっていて、そこで一つまとまったテイストが出来上がってるからなんだけど、それはただひたすらに楽しい。この楽しさはこれまで読んだ奇想コレクションの中でもずば抜けているかも。
前半の哀切漂う味わい深い話と、それとは打って変わった破天荒で愉快な話と、一粒で二度美味しい。それどころか1+1でパラダイスやー!な本。うーん、やはり奇想コレクションに外れなし。てなわけで次回も奇想コレクションから1冊です。



今回のネタは悪乗りしすぎたかな。誤解をまねくといけないので書いておくと、この本は全くエッチじゃありませんからね。そのあたりの詳しい中身については例によって続きで。


ふたりジャネット

『熊が火を発見する』
不思議なタイトルだけど内容はそのまんま、熊が火を発見した世界の話。もう少し分かりやすく書くと、熊が火を使う事を覚えたとも言えるかな。
かつて人が火を手にし進化を遂げたように、熊が劇的な変化を?って期待したくなるけど、熊はあくまでも背景のようなものであり、描かれているのはある親子の別れ。森の中で熊とともに火を囲む場面が、なんとも幻想的でした。


『アンを押してください』
デートに行くのにお金を下ろそうとしたら、突如語りかけてくるATM。まるでコントみたいな一幕劇。含みを持たせた終わり方なんだけど、最後の選択肢が面白いですね。同情や天気ならコメディーだけど、復讐ならサスペンスだし。そしてああなるのは奇想コレクションならではでしょうか。
でも私の場合また本を買うんですか?まだ本を買うんですか?家にいっぱいありじゃありませんか。そちらを読まれては?とか言われそうだあせあせ(飛び散る汗)


『未来からきたふたり組』
タイムスリップもののラブコメ。深夜のアートギャラリーに突如未来人が現れて、やがてくる災厄から貴重な美術品を保護するためにやって来ましたと言う。ちょうどギャラリーの警備をしていたあたしはあまりの事に面食らってしまう。しかも彼等の目的の品というのが……。
スター・トレックは見た事がある。しかしアイ・ラヴ・ルーシーは知らない。それが口惜しい。


『英国航行中』
政治的な物事に対する例えかと思うでしょ?このタイトル。護送船団みたいに。ところがどっこい、本当に英国が海の上を走り出すというお話なんですよ。んな目茶苦茶な。
それに伴う騒動が少しは書かれているんだけど、熊と一緒でメインにあるのは人生の終盤における哀愁や日々への慈しみ、それとちょっとした奇跡。
でもアイルランドは着いてこないとか、側を通った通らないで起きる連邦加盟国の喜怒など、ちょっとした風刺も面白かったです。


『ふたりジャネット』
故郷の町になぜかアメリカを代表する作家が次々と移り住んで来てってお話。いきなり春樹さんが隣に越して来て、はすむかいには恩田さんが、通ってた学校には妹尾さんが赴任し、おまけに駅前のショッピングセンターで京極さんを見掛けたよなんて言われた日には取るものも取り敢えず駆け付けるでしょうね、私は。
町を出た者、町に残った者、親友二人の邂逅って日本の作品ではいくつか読んだ事があったけど、アメリカでもあるんですね。随分風変わりではありますが。でもSFって事を強く意識すれば、町に残った自分と町を出た自分というパラレルな世界が交差する「if(もしも)」のような話にも読み取れるし、起きてる出来事同様なんとも不思議な底が知れない話です。


『異界飛行士』
この話はこれまでの奇想コレクションにわりかし近いと思いました。盲目の画家が死後の世界へと訪れる方法を編み出したという科学者の依頼を受け、あの世に行ってはそれを絵にしていく話。


『穴の中の穴』
『宇宙のはずれ』
『時間どおりに教会へ』
ここからがその《万能中国人ウィルスン・ウー》シリーズ。最初はシリーズって知らなくて、子供みたいな男二人が巻き起こすドタバタかと思ったら、実に洒落の効いたキッチュなラブストーリーにもなっていて、本当に楽しいお話。特に最後の『時間どおりに教会へ』はいいです。
主人公のアーヴィンは法律家志望の、どちらかといえばいたって普通の男なんだけど、なぜか毎度宇宙のすきまにはまると言うか、不思議な出来事に出くわします。月へと通じる穴を見つけたり、時間が逆行する空間に居合わせたり。そしてその度、偶然かはたまた必然か彼の友人であるウーがそれを説き明かしていくのです。
ウーはパン職人をしながらハイスクールを卒業し、ドロップ・アウトしてロック・バンドを結成し、奨学金を得て数学を専攻し、またドロップ・アウトしてエンジニアになり、夜学で医学を学びその途中で法学に転科した男で、なんでも出来ちゃうスーパーマン。オイラもウーみたいな友人を持ちたいっす。
すごいんですよ、本当。ニューヨークの街を歩き回るアーヴィンを捕まえるのに、公衆電話や道行く人の携帯に電話しちゃったりするんですから。しかも遥か遠くから、アーヴィンの予定も知らないのに。
また事あるごとに現象を説明する数式をウーが教えてくれるんだけど、アーヴィンはそれをまったく理解していなくて、適当に会話を進めちゃうもんだから、ちぐはぐなまま話が進む事があって、それがまた可笑しいこと。
これだけで1冊の本にしてもいいんじゃない、いやむしろ1冊にしてもっと読みたい。ウーの経歴がどこまで増えるのか見てみたいなあ。他にもないのかなあ。


posted by たまねぎ at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外の作家さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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