2008年07月07日

倒錯のロンド  折原一

みなさんこんばんは。今朝は思わずTUBEを口ずさんでしまったたまねぎです。(※この記事も7月5日に作成されました。)そういえば最近見てないな。

さて、いくつかミステリーを読んでいる内に、名探偵が活躍する話ももちろん好きだけど、叙述トリックを扱った作品が、自分としては一番驚かされ楽しくなってしまう事がわかってきました。歌野の名作もそうだし、最近なら道尾さんもしかり。
ならば、この人の作品を読まないわけにはいかないでしょうと、折原一さんの『倒錯のロンド』です。ちなみにおりはら"いち"さんなんですよね。私は始めてこの方の名前を見た時に"はじめ"と読んでしまい、なかなかそれが抜けません。未だに油断すると"はじめ"と言ってしまいそうになります。

しかし…参っちゃいますよね。叙述トリックだとあらかじめ分かっていて気をつけながら読んだのに、2、3ヵ所の決定的な部分で「あれっ?」となり読み返したのに、それにも拘わらずころっと騙されちゃいました。
しっかりしなさいよ私のオムツ。いやもとい、おつむだろうが。ああきっとこの暑さがいけないんだ。あまりの暑さで頭が茹だっちまったんだ。アイスでも食べよ。

ただいま。よっこい正一。恥ずかしながら食べて参りました。涼風堂のゆずアイス、柚子部分は氷なのね。アイスを期待していただけに、ちょっとだけ残念がく〜(落胆した顔)

では気を取り直して粗筋です。


主人公は推理作家を目指す山本安雄。夢を叶えるために仕事も辞め貧乏暮らしに耐えながら、この5年間研鑽の日々を送ってまいりました。そして今年こそは勝負の年であると、意を決して書き上げたのが、かの名作『幻の女』よりタイトルを頂いた420枚の傑作であります。
書くぞ書くぞと思いつつ、中々書き出しが決まらない。最初に立てたスケジュールは脆くも崩れ、大丈夫新人賞の締切まではまだあと3ヵ月、あと2ヵ月と、苦し紛れの言葉で己を鼓舞しながら、焦りと悶えを乗り越えようやっと完成させた力作でございました。はあーべんべん。

さあ山本安雄。まずはその原稿を執筆中にも世話になった親友の城戸明へと見せました。その反応はと申しますれば、ミステリーに強くないと前置きしながらではございますが、感動した!!貧しさに耐え……じゃなくて、新人賞を充分狙える、受賞は確実だと、かなりの好感触。
が、しかあししかし、たった一つの欠点を友は指摘いたしました。字が汚い。これじゃあ読むだけでも一苦労。審査の前に撥ねられてもしかたがないぞと。

と、ここで城戸明。これまでの親友の苦労を側で見続けて参りました。イラストレーターとして独立し事務所を開いたばかりと多忙な身でありながら、なんと自前のワープロによる清書打ちを買って出たのでございます。なんと心優しい男でしょう。持つべきものはなんとやらでございます。

さあさあそして約束の期日を幾日が過ぎたその日、山本安雄は気もそぞろと友の来訪を待ち侘びておりました。急な仕事ゆえ少々遅れるという一報もありましたが、ついに今日原稿が我が手元に帰ってくる。
しかしそれにしても遅い。待てど暮らせど眼下の路地に城戸の姿は現れず。日没をむかえさすがに痺れを切らし、とりあえず飯でもと立ち上がったところで、ようやく待ち人来たり。
ところが一体どうした事でありましょうか、古アパートの階段をミシミシと音を立てながら昇り戸口へと見せた友の顔は青ざめ、発した言葉は開口一番許してくれ。恐る恐る山本が尋ねてみれば、なんと原稿を紛失したというではありませんか。
まあ、なんという事でしょう。匠……いや城戸明は多忙による疲労からふと気を抜いてしまい、こちらへ向かう途中の電車で原稿からフロッピーまでの一切合財を置き忘れたというのです。
下車後に気付き駅員の下へ駆け込めど、該当車輌に荷物はなく、駅窓口への届出も皆無。締切までは残り僅か2週間余り。山本安雄は失意のどん底へと突き落とされしまうのでした。


さて時と場所を移しまして、京浜東北線の車内。とあるトラブルから失業してしまった男がおりました。名を永島一郎と申します。
この男、向かいの座席の乗客が網棚に荷物を忘れたのに気付き声をかけたのですが、その声は電車の音に掻き消され、相手へと届かせる事が出来ませんでした。
残された荷物を手にどうしたもんかと首を傾げるのですが、ここで永島一郎、好奇心がちょっと働き袋の中を覗き見てしまいます。目に入りましたは「月刊推理新人賞応募作品」の文字。
人間知らなければ何ともありませんが、少しでも知ってしまうと、さらにその向こうが気になるもの。いたずら心に火が点いた永島一郎は喫茶店に入り、作品に一通り目を通してしまいます。そして驚いた。なんて面白い小説だろうと。
永島一郎も決して悪い人間じゃあございません。これを書いた人間は今頃困っているに違いない。幸い原稿には応募用に名前と住所も入っている。ここは直接届けてやろうじゃないかと、思い立ちました。
そして一応の為と本屋に寄って募集要項から締切を確認しようとしたのですが、こいつがいけなかった。その時永島一郎の目を捕らえて離さなかったのが賞金一千万の文字なのであります。

その瞬間から永島一郎の心の中には、悪しき考えが芽生えてしまいます。それでも一度は届けに行ったのですが、運の悪い偶然が奇妙な擦れ違いを生み、その背中を最悪の方向へと押してしまうのでありました。

この原稿を自分の名前で出してしまえば……。

賞金の一千万も……。

その為には山本安雄の存在が……。


さあ彼等の運命やいかに。


倒錯のロンド

続きはまたネタバレです。

ここまで読んでいただいた方ならもうお気づきとは思いますが、倒錯と盗作がかかっているんですね、この本。私はそれに気付くまで少々時間を要してしまいました。やっぱり茹だってるよ。
しかし……悔しいことに、最初の最初からあれさっき第何回と書いてあったっけ?と何気なく読み返し、さらには白鳥翔は二人いるんでしょとまで分かっていながら、それでも真相には辿り着けませんでした。既読の方、そこまでいって?馬鹿だなあと笑ってやっておくんなまし。
いや、それにしてもです。原稿紛失は確かに不幸な出来事だったけど、何もそこまで責めなくてもいいじゃない。別の賞って手もあるでしょう。その賞向けに書いたとはいえ、それだけの傑作ならなんとかなるんじゃ。とか、どうしてそこで逃げちゃって、どうしてそこで警察に真実を話さないんだ山本安雄よ!って読んでいたんですが、それがあんな結末への繋がり故とは、一本どころか十本ぐらい取られちゃいました。
さすが叙述トリックといえばこの人と言われるだけありますね。単行本化にあわせて付け加えられたおまけも、なかなか面白いじゃありませんか。そこからメタな視点を折り込みますか。最後の一言など、ちょっと哀れな感じもありますが、今なら笑い話にもなるでしょう。良かったですね、95年日本推理作家協会賞受賞。なんだか私まで嬉しくなってしまいましたよ。

posted by たまねぎ at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック