のっけから意味のない2段ツッコミで失礼いたしました。あらためまして、たまねぎです。ではさっそく、今日の本はスティーヴン・ミルハウザー『ナイフ投げ師』。図書館のオススメコーナーにいつも置いてあって誰も借りないもんだから、ならば私がと借りて参りました。表紙とタイトルにもちょっと惹かれたし。
中身は表題作『ナイフ投げ師』を含む12の短篇を収めたものなんだけど……これが実に変わった不思議な本。変わった短篇となると奇想コレクションや異色作家短篇集でだいぶ慣れたつもりだったんですけどね、これはそのどれからも異質でまたくわせものでした。
奇想コレクションなんかはSFやミステリー色が強くて、一体何が起きてるんだろうっていうドキドキや、思いも寄らない一言でひっくり返される驚きがあったんですが、この本はそれは全然ないんです。
話によっては、夜な夜な集まる少女達とか空飛ぶ絨毯と、ちょっとした不思議は存在するけど、それによって物語がどんどん変化していくのではなくて、それのある風景をただ眺めているような感じです。
うーんなんて言えばいいのかな。実に絵画的な作品だと思うんです。例えるならば、バベルの塔を描いた有名な絵の中に入り込んだような気分にさせられる本なんです。
その巨大さや至る所に施された意匠に感嘆して、またここまでの物を作り上げてしまう人間の業に軽い恐れを抱きつつ、その一方でそれが天を貫く様を想像して期待を膨らませてしまう。
そして、そうやって絵の中で目移りしている自分がいながら、同時にこれは絵なんだと理解して外から眺めている自分も存在していることを意識させられるのです。
物語に手を引かれ、次から次へと変化する世界に刺激されるというよりも、いつの間にか物語の世界が目の前に現れ、その美しさに息を飲んでしまうような一冊。
それこそ12の精巧な箱庭かドールハウスが並んでいるような本でしょうか。それぞれが独立した世界でありながら、どこか繋がりを感じさせるのもまた不思議でした。

……やっぱり説明が難しい。
続きは簡単な粗筋です。
『ナイフ投げ師』
ナイフ投げ師ヘンシュがに町にやって来た。これまでとは一線を画したと噂される彼の芸を、私達は固唾を飲んで見守った。
『ある訪問』
親友から届いた九年振りの便り。妻を貰った。是非とも家に来てくれ。指定された田舎町の一軒家で紹介されたのは大きな蛙だった。
『夜の姉妹団』
一人の少女の告発により、姉妹団の存在は明るみになった。夜な夜な人目につかない場所へ集まっては何かをしていた、十二歳から十五歳までの少女達。ある日ひっそりと渡される招待状と、課される沈黙の掟。秘密結社じみたそれらは、町の大人に一層の不安をもたらしたのだった。
『出口』
年上の人妻との情事を旦那に目撃されてしまったハーター。翌朝、彼の家に男の友人を名乗る二人組が現れ……。
『空飛ぶ絨毯』
ある日我が家にも空飛ぶ絨毯がやって来た。そして僕は母さんとの約束を破り、一人で高くへと飛んでいった。
『新自動人形劇場』
私達の市には無数の自動人形劇団があり、それは私達の市の誇りであった。自動人形劇は多くの名匠達の手により進化を遂げてきた。そしてそれをこれまでとは違う決定的な場所へと押し上げたのは一人の天才だった。
『月の光』
十五歳の夏、眠れなくなった僕は夜の町を彷徨する。そしてたどり着いた先に待っていたのは、野球に興じる少女達だった。
『協会の夢』
協会が買収し生まれ変わらせた百貨店はありとあらゆる物を扱い、常に変化し続け、私達を釘付けにした。
『気球飛行、一八七○年』
戦局をひっくり返す為に私は空へと上がる。パリを包囲するプロイセンの頭上を抜け、一斉蜂起を促すのだ。
『パラダイス・パーク』
パラダイスパークは一九一二年に開園し、一九二四年に火災により焼失した遊園地である。そしてこれは、一人の天才が作り上げた、過去から未来までを含めても類を見ない、幻の遊園地の記録である。
『カスパー・ハウザーは語る』
十七年間、高い塔の牢獄に閉じ込められ、他人との接触を一切禁じられてきた男。ついに保護され、3年の月日をかけ、言葉や、人としての常識を身につけた彼が、町の人々を前に今、語り出す。
『私たちの町の地下室の下』
私達の町の足元には遥か昔から、巨大な地下道が広がっていた。地下道への入口は掘削と崩落により、常に変化しながら、町の至る所を点在していた。しかし地下道で迷う事はまず有り得なかった。歩いていれば、必ずどこかの出入口にはたどり着くからだ。そして私達は今日も地下へと降りていくのだった。



