成風堂シリーズが既に3作を数え、書店という狭い空間の中で物語を展開していくには流石に苦しくなってきたかなーという感じだったのですが、今回はその制約が外れてとってものびのびした感じを持ちつつ、初めて『配達あかずきん』を読んだ時のような新鮮さが蘇っています。
もちろん大崎さん自身は前にもまして上手くなってるんだけど、新米営業部員の奮闘する様とか、本への熱い思いが初々しくてよいのですよ。当然裏側を覗く楽しさもある。
中堅どころの出版社である明林書房の新入社員井辻智紀はじめ、先輩社員の吉野や、担当エリアの重なる他社の営業部員など、魅力的なキャラクターが一杯だし、これは楽しい本です。実際にお店に並んでいる本も沢山登場するし、本好きにはたまりません。是非シリーズ化を。

続きにはこの作品に収められている5つの話それぞれの感想を。作品内で登場した本のメモと合わせて。ちょっとネタバレも入ります。
『平台がおまちかね』
入社2年目、前任者の後を引き継ぎ書店回りを始めてからは4ヶ月。少しずつ営業の仕事にもなれてきた井辻君。ある日売り上げデータをチェックしていたら、『白鳥の岸辺』という5年も前に発売された文庫本を随分と売っているお店がある事を発見する。早速その店を訪ねてみると……。
人と人との付き合いだからどうしても難しくなっちゃうんですよね。私がいた頃の事だと、営業さんによっては人気の本を何とか融通してくれる人もいたりして、そういう相手とは忙しくてもなんとか時間を取ろうとするけど、さほど重要じゃない所だとついおざなりになってしまう。それこそ後でFAXしますんでチラシだけとか。
・綾辻行人『十角館の殺人』
実は『白鳥の岸辺』は架空の作品。この本の中には実際に存在する本と架空の本とが多数入り交じっているのですが、その線引きとしてはその本の内容がストーリーに影響してくるかにあるようです。そして今回井辻君がジオラマまで作っちゃった本として紹介されたのが綾辻さんの傑作ミステリーでした。
『マドンナの憂鬱な棚』
大変だ!我らがマドンナことハセジマ書店のみなみちゃんが落ち込んでいるらしい。話によれば、彼女の事をつまらない女と言った野郎がいるとか!?「マドンナの笑顔を守る会」の面々は早速調査を開始するのだが……。
すいませんここはネタバレ。家の近所のお店はねえ、本当にひどいんですよ。この前なんか平台を眺めていたら千原ジュニアの本に渡辺淳一の本が挟まれているという、なんともアバンギャルドな並びを展開してました。スカイ・クロラシリーズの新装丁版も並べれば一枚絵になるデザインなのに、ちぐはぐな順番だし。時折直したくなるのを必死で堪えています。でもこの前危なかったのが、たまたま隣にいた女の子が友達に『子供達は夜と遊ぶ』を探してるんだけどって話していて、思わずこっちこっちと講談社文庫の所まで案内しそうになりました。
・荻原浩『千年樹』
・ツイアビ『パパラギ』
虚ろな状態で棚をいじっていたマドンナが手にしていた本が荻原さんの『千年樹』。そしてマドンナの人柄を紹介するのに例に出されたのが『パパラギ』。
『パパラギ』は懐かしいですね。10年位前もよく売れてました。リトル・トリーとかインディアンの教えを紹介する本がその頃流行って、一緒に並べてましたよ。
『贈呈式で会いましょう』
今日は明林書房が主催する宝力宝賞の贈呈式。営業部の社員も総出で式の準備に当たります。我らが井辻君もしかり。上司に頼まれ買い物に走ると、会場となるホテルのロビーで見知らぬ老人に言付けを頼まれます。伝える相手はなんと受賞の決まった新人作家。そしていざ控室へと向かってみると、なんと当の作家が行方不明で一堂大パニック!?。
『絵本の神様』
今回は東北エリアへと出張する事になった井辻君。日頃なかなか訪れる事の出来ない地方回りに際し、彼はどうしても寄っておきたい店があったのだが……。
・『どろんこハリー』
・『うみべのハリー』
・『スーホーの白い馬』
・『おしゃべりなたまごやき』
・『三びきのやぎのがらがらどん』
・『てぶくろ』
・『だるまちゃんとてんぐちゃん』
・『そらいろのたね』
・『ぐりとぐら』
・『ババールとサンタクロース』
・『ノンタンぶらんこのせて』
・『空色勾玉』
タイトルが直接出てきたものはこれだけですが、シリーズや作家含め沢山の絵本が登場します。ちなみに私はノンタンで育ちました。弟はウォーリー。唯一絵本じゃない『空色勾玉』は吉野さんの凄さを物語るエピソードの中で登場。
『ときめきのポップスター』
某大型書店のフロアマネージャーが言い出したポプコン、ポピュラーソングコンテストならぬPOP販促コンテストで凌ぎを削る事となった各社営業の面々。
ポプコンの概要は他社の文庫本から1冊、自社の文庫本から1冊の計2冊本を選びポップを作るというもの。ただしポイントとなるのは他社本の売上冊数のみで、選ぶ際には埋もれてしまった本を極力選ばなくてはならない。ご褒美はなんとフェア台1ヶ月独占!
それぞれがイチ押しの1冊を並べたフェアはことのほか好評でよいスタートを切ったのだが、ある時フェア台の上でちょっと変わった事態が起きはじめて……。
これはいいフェアですね。しかし井辻君、なぜそこでジオラマ作りの腕を活かさないのか。
・新堂冬樹『忘れ雪』
・井上ひさし『青葉繁れる』
・竹内真『カレーライフ』
・恩田陸『ライオンハート』
・隆慶一郎『柳生非情剣』
・三浦綾子『母』
・筒井康隆『旅のラゴス』
・若竹七海『サンタクロースのせいにしよう』
・加納朋子『ななつのこ』
・ジョン・ダニング『幻の特装本』
以上がお勧め本として登場した本。文庫になってる時点で、みんなそれなりに名前の知れた作家さんであるわけですが、このラインナップには少々納得がいかないのであります。
いや、これがみな世間では埋もれた本として認識されているとしたらあまりにも悲しい。一線級の作家さんばかりじゃありませんか。
私ならば誰を選ぶか?うーん。引間徹『19分25秒』、天籐真『大誘拐』とかはどうでしょう。
出版社営業のお話ということで『配達あかずきん』に登場したいなせなあの人がどっかで顔を見せるかなあと思ったのですが、残念ながらそれはありませんでした。しかし最後の所で現れた意外な名前には思わずにんまり。まさかシリーズの枠を越えたロマンスが?
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