しかし忍城の主である成田氏長はすでに秀吉に対し秘密裏に使者を送り、降伏の意を届けておりました。つまりこの戦は、三成に武勲を立てさせようとする秀吉の計らいだったのです。
三成の率いる軍勢はその数およそ二万三千。一方の忍城側は擬装のため氏長含め兵の半数を小田原へと差し出しており、留守を任された僅か五百の兵でこれを迎え撃つ事となりました。
二万対五百。その彼我戦力差は絶対的であり、秀吉の思惑がどうであれ、勝負は始めから決しているようなものでした。
これには殿の下知を不承不承に聞いていた成田家の猛者達も息を呑みました。不遜な軍使の降伏勧告を前に、誰もが恥辱に耐えながらも開城を止むなしとしました。
しかしその時、たった一人異を唱えた者がいました。それがのぼう様こと成田長親、氏長の従兄弟でありました。

というわけで直木賞特集最後の一冊は和田竜さんの『のぼうの城』です。三崎さんがまだなんだけど、候補含め刊行済みの作品はすべて読んでしまっているので、今回は省略。
この本はあちらこちらの書店でランキング上位に挙げられていたり、イチ押しとプッシュされていたので、存在は知っておりました。ただ出版社、芸能人推薦の帯、表紙の雰囲気となにもかもが自分の好みからはことごとく外れていたので、見て見ぬふりをしていたのです。
なんで候補作の中にその名があるのを見つけた時には、そこまでかと驚き、己の了見の狭さに恥じ入ったり
しかしいざ読むとなればそれはそれ、これはこれです。どれどれと読んでみれば、今年ナンバーワンかどうかはともかく、確かに面白かったです。そう、エンターテイメントとしては面白い。
しかし……小説としてとなると、呆気なさすぎるというか物足りない。キャラクターの魅力に頼った小説であり、小さい見せ場の連続で出来ていている辺り、実に漫画的な本だと思います。
主な登場人物それぞれに簡単な背景なり逸話を用意して、平等に見せ場も誂えている。いかにもかっこいい生き様に一瞬ぐっともくる。しかし、肝心の人物の掘り下げが浅い分、さらっと終わってもしまうのです。
もともと脚本だったものから小説を起こしたというのが大きいのでしょう。もちろんその反面良い点もあって、ビジュアルを強く想起させるし、実際に見てみたいと思わせてくれます。湖上に浮かぶ城なんて特に。
とはいえ、盛り上がりにはやはりちょっと欠けるかな。この窮地をいかに乗り越えるのかという興味からページは先に先にと進むけど、人物の薄さを紋切り型の、これぞ男気だろうみたいなお約束で一列に補っちゃっているから、あまりに出来過ぎにも映るし。
でも、人間的魅力の溢れた頭領の下に集った愚連隊的集団が、知謀知略を尽くして時の権力者に一泡ふかせるという、実はとてもオーソドックスな内容に、のぼうなるこれまでにはあまりなかった主人公を当てることで新しさを出していたり、参考資料一覧からは綿密な下調べの上で物語を組み立てているのが伺えるあたり、これからが楽しみな人だと思いました。
直木賞という点では、この作品に渡すなら、酒見さんが先だろうというのが率直な所であります。
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