2008年03月17日

ぼくのプレミア・ライフ  ニック・ホーンビィ

年明けから少しずつ読んで、Jリーグ開幕の日に狙ったように読了。まあ、スタジアムへのお供にこの本を選んだ時点で狙ったも同然なんだけど。
さてこの本の著者のニック・ホーンビィはヒュー・グラント主演で映画化された『アバウト・ア・ボーイ』の原作等を書いたイギリスの人気作家で、これがデビュー作。『アバウト・ア・ボーイ』は日本公開の際に、同じWorking Title Films製作のヒット作に準えて、男版ブリジット・ジョーンズなんて紹介をされていたけど、私はどちらかといえば、この作品の方がそれには合ってるんじゃないかって気がします。ブリジットとアバウト(以下略)は映画しか観てないから、ハッキリとは言い切れないんだけど。ただ、恋に走る女の子、サッカーに逃げる男の子ってのが、私には実に対象的に写ったのです。

ところでこの本は原題が『FEVER PITCH』となるのですが、邦題の付け方が実に上手いですね。直訳すればピッチの熱狂なんだろうけど、読んだ身からすると抜け出せないくそったれみたいな熱情という二重の隠された意味があるように感じました。つまりはピッチが×××とかかっていると。そのまま女々しい野郎でも通じそうではありますが。
そして邦題のプレミアライフはプレミアム=貴重な毎日と、イングランドのプロフットボールリーグである、プレミアリーグのプレミアとで引っ掛かっているんです。実際に描かれているのはプレミア以前の話なんですけどね、日本での出版時期を考えれば、これほどぴったりなタイトルもありません。

さてさて、ここまで書くとピンと来てるかも知れませんが、この『僕のプレミア・ライフ』はフットボールに取り付かれた男の日記になります。1968年の9月、11歳の時に観たアーセナルというチームの試合から始まり、1992年1月の同じくアーセナルの試合で幕を閉じます。
24年にも及ぶ間に行われた数多の試合についての詳細と、フットボールに対する愛憎と、著者の成長が綴られた本書を、私は複雑な気持ちで読みました。
私自身それなりにフットボール好きであります。しかしこの本の言葉を借りるなら、何年もスタジアムで新戦力を見てもいない、腑抜けと同類であるのも事実です。この所は年に1、2試合もスタンド観戦すればマシな方ですから。
しかし、この本の著者と同じくらいサッカーと生活が切り離せないものとなっている人間を幾人か見知っており、そういった友人達の姿を思い浮かべながら読んだのでした。
シーズン中には毎週末地元か遠征先のスタジアムに出向き、時にはくそ暑い日差しの下、また時には雨ざらしになりながら、満たされる保証の無い90分を過ごす者。はたまた転職条件の上位にフットボールのための土曜日休みを据える者。
そういった人間の為に捧げられた一冊のように思います。もしくは、その身近でやれやれと愛想を尽かしているような人の為でしょうか。

趣味が高じてというのはよくある話ですが、とかくフットボールというやつは、真剣に向き合おうと思ったら、人生をまるまる捧げざるおえないような代物なのです。
たかだかボール一つが齎せる競技が、世界中で最も多くの人間を熱狂させ、時に戦争をも引き起こす。その魅力は取り付かれてみなければ分からないし、取り付かれたらなお分からない。
フットボールの何が好きなのかと問われた時、そりゃフットボールだからとしか私には答えようがありません。ゴールの瞬間の歓喜、信じられないようなプレーを目の当たりにした時の驚き、愛するチームの栄光を夢見て心踊らせる日々。スタンドの中だけで許された下卑た野次(※)や、フットボールのはらむ暴力性。
そのどれもが当て嵌まるものの、どれもそれが全てとは言い難い。フットボールにまつわる全てのものが、こちらを捕らえてはなさないのです。

この本の特に前半部分などはフットボールに縁のない方には退屈かも知れません。しかし、父との関係をうまく築くことが出来ず、その代替としてフットボールを選んだ少年の成長譚としても興味深く読むことも出来れば、後半は一人の作家の自伝として売れていくまでの苦しみや葛藤を垣間見ることも可能です。私としては、身近にフットボール狂のいる方、特に女性がこの本を読んで、傍らにいる人間への理解なりに繋がればなあとも思うのでした。

また一フットボールファンとしては、ベンゲルを招聘しかつてない繁栄を見せる今のアーセナルを、過度に多国籍化しハイバリーからエレミーツへと居を遷したクラブを、著者が一体どう見ているのか聞いてみたくもあるのですが。


ぼくのプレミアライフ


※)ここで言う下卑た野次とは、相手チームに対する威嚇や、目を覆いたくなるようなプレーや判定に対する罵倒を示しています。昨今問題となっている人種差別的野次はあってはならないと考えておりますので、あしからず。

posted by たまねぎ at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外の作家さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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