メッタ斬りでの言いたい放題なやり取りの印象が強い方ですが、訳者として信頼できる人なのかもと改めて見直してみたり。そしてこの本で奇想コレクションがますます好きになってしまいました。
ウィネベーゴの時はSFというフィールドの自由さ、想像の豊かさに驚かされ、こちらも色々と空想を掻き立てらりしたんだけど、今回はもっと刺激的で恐ろしさをはらんだ内容に興奮しました。
そして何よりこれらの作品が50年近く昔に書かれたというのが驚きです。半世紀ですよ。読んでいるときはもっと最近の作品なのかと思ってました。解説を見て本当にびっくり。
言われてみれば携帯電話もメールもないような世界だし、結末まで読んでみれば有りがちなオチばかりです。でもそれは今の時代の人間からしたらで、それをなぞった後発の作品を見ていたって事だろうし、それに登場人物達の姿が今の世界に持ってきてもなんの違和感もないのです。
今思い描く未来と、50年前のこの人が浮かべた未来像では軸の部分にズレがないんじゃって感じました。天才…と言うよりは奇才か。いやー驚いた。
短編が8本入ってますが、大森さんも書いているように、最初の3つは軽いSFテイスト(それでも私には十分刺激的)の作品で、残りはサイコサスペンス調の作品。後半に行けば行くほど刺激が増してきます。

続きには個別の感想を。ただし短編なので軽いネタバレも含みます。
『取り替え子』
「とにかく短期決選よ」「いまから八日以内に赤ん坊をつくらなきゃ、札束とはさようなら」という出だしの2行で一気に、な…何ですの?んな無茶苦茶な、と引き付けられた一編。実はそれで借りちゃったようなものなんだけど、その後に繰り広げられるドリフみたいなやりとりに爆笑してしまった。
おめーはどうして分からんのよと相手を川面にたたき付けて、あーっごめんよーなんてやってるうちに、川上からドンブラコドンブラコと赤ちゃんが流れて来てって、なんじゃそりゃ。おまけにその赤ん坊がいかりや張りに「オイーッス」って馬鹿すぎる!!(褒めてます)。
男がショーティで女がマイクルっていう丸っきり逆転したような名前は意図があるのかなあ。次がそういう感じの作品だし。
『ミドリザルとの情事』
道で行き倒れていた男を拾って帰ったら奥さんを寝とられたって話。結末で一瞬「ん?」と混乱してしまった。言ってることは分かるし、ちっちゃい部分って下ネタも分かったんだけど。結局彼は両性具有だったって事?それとも、ますらおであらざるは男であらず、って事?
封建的な男尊主義をあざ笑っている話でもあるんだろうけど、それを自由の国であると同時にキリスト系保守層の強い国でもあるアメリカで、しかも50年前にやってるのが凄い。
『旅する巌』
私は特に気にせずに読んだんだけど、解説によればSFとしては失格らしい。まあ確かにSF的なギミックの説明はなんか適当つうか、物凄くB級感が漂ってるか。
彗星のように現れた新進作家のもとをエージェントが訪ねてみれば、その穏やかでせせらぎのような作風からは想像が付かないような偏屈で非道な男、敷地内に入った見知らぬ人間にいきなり発砲するような、が出てきて、彼にあんな話が書けるはずもない、何かの秘密があるはずだと展開するお話。
SF的なチープさは、ここであげた彗星のような〜とかせせらぎ〜みたいなって慣用句と同じようなもんかと思います。
『君微笑めば』
サイコサスペンスとしては王道のようなオチ。志村ーうしろ、うしろって感じで途中から結末は見え見えなんだけど、それでも面白い。この主人公の不遜さといい、極端な父権に意を唱えようという考えがあるのかな、この人は。
『ニュースの時間です』
毎日、新聞、ラジオ、テレビと、ありとあらゆるニュースをチェックしないと気が済まない男の話。ある日業を煮やした奥さんが全てを取り上げてしまうと、男は怒りと失望から家を飛び出してしまう。ってただの家出話に見えるけど、一癖も二癖もあるけったいな話。
社会的正義感をかかげ男を救い出そうとする精神科医が彼を安息から引っ張り出してしまうのと、それにより齎された悲劇というのがなんとも皮肉で、隠喩的です。
解説でたまげたのが、ネタがないと困った著者に、この話を含む26本のブロットを送ったというハインラインの逸話。26本って。
『マエストロを殺せ』
あるジャズバンドに起きた悲劇の物語。最初はジャズ部分のモチーフはサッチモことルイ・アームストロングかと思ったんだけど、どちらかと言えばマイルス・デイビスなのかな。途中一時だけ加わったピアニストというのもそれを思わせる。
確かエバンスだっけ、マイルス・デイビスとやって有名になったのって。この辺、ジャズはあんまり聴かないから自信もないのですが。それゆえ真っ先にイメージできたのがこの二人だけだったてのもあります。
ここからの話はどれもそうなんだけど、何かしらの障がいを持った人が主人公で、その純粋さのせいで自分を追い詰め、ズレていってしまうのが印象的であり、物悲しかったです。
『ルウェリンの犯罪』
8つの中で一番印象に残ったのがこの話。フォレストガンプが自分がきちんと理解できた言葉のみを胸に、自分の出来る事=走る事をひたすら続け、気がつけば幸福を手にしていた物語なら、これはその逆。
お前には出来っこないという言葉に反発するように、「悪い事」を求め続け、たどり着いた先に待っていたのは……。彼にとってはことごとく悪い方に働く偶然、また彼は最初からみんな持っていて、ただそれに気付く事が出来なかったという事実が悲しい。
『輝く断片』
最後に表題作。衝撃的という意味では最も強い作品。これはおそらく読んでいる途中で、思わず一度本を閉じてしまうはず。そして、この本自体を眺めながら、そうだったのかと軽い驚きを受けると思う。
その驚きを大切にしたいから、ネタバレありと前置きしたこの続きでも、あえて内容は伏せておきます。にしても、これも悲しすぎる。



